転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


108 お片付けと埃を被った魔石



「お母さんも手伝ってくれるの?」

「ええ。あそこには一見ゴミにしか思えなくても家族にとっては大事な物が入れてあるから、ルディーンやお父さんに任せるわけにはいかないのよ」

 イーノックカウから帰った昨日の晩御飯の時、僕はお母さんやお兄ちゃんお姉ちゃんにジャンプの魔法の事を話したんだ。

 そしてイーノックカウの錬金術ギルドでこの魔法の事はご近所の人のも教えない方がいいって言われたから、人に見られないように裏にある物置小屋を使ってもいい? って聞いたんだけど、そしたら僕だけでお片付けをすると色んな物が無くなっちゃいそうだからってお母さんも手伝ってくれる事になったんだ。


 と言う訳で次の日の朝、僕とお母さん、そして何故かキャリーナ姉ちゃんが物置小屋の前に来ていた。

「キャリーナ姉ちゃん、何でここにいるの?」

「だってルディーン、新しい魔法をここで使うんでしょ? 私も見てみたいもん」

 そっか。キャリーナ姉ちゃんも魔法が使えるから、ジャンプがどんな魔法か知りたくて来たんだね。

 でもジャンプは神官職では使えないんだよなぁ。


 転移魔法の内、ジャンプとテレポートは魔法使いの上位職か賢者の上位職が使う魔法なんだ。

 で、唯一全ての魔道士が使える転移魔法がゲートなんだけど、これって34レベルにならないと使えない魔法なんだよねぇ。

 そう思いながらキャリーナ姉ちゃんのステータスを見てみると、レベル上限は28。僕の家族の中では34のヒルダ姉ちゃんと30の僕に続いて3番目にレベル上限が高いけど、それでもゲートを覚えるのは無理なんだよなぁ。

 ん? よく考えるとヒルダ姉ちゃんって、もし魔法使いだったらゲートを覚えられる可能性があったって事なのか。こう考えるとヒルダ姉ちゃんは、本当に凄いんだなぁ。

「どうしたのルディーン、急に黙り込んじゃって」

 そんな事を考えていると、キャリーナ姉ちゃんの話を聞いて急に考え込んじゃった僕に、お母さんがしゃがんで目線をあわせながらそう聞いてきたんだ。

「ううん、なんでもないよ。昨日お話した呪文の事を考えてたんだ」

 僕はそう言ってお母さんにお返事すると、キャリーナ姉ちゃんのほうを向いて、

「見せるのはいいけど、キャリーナ姉ちゃんはジャンプの魔法、使えないよ」

 って教えてあげたんだ。

「え〜、なんで? なんで?」

 するとお姉ちゃんは僕の両肩を持ってブンブンと揺さぶる。

 僕、レベルが上がってステータスは上がってるけど、足の大きさが変わったわけじゃないし体重も重くなったわけじゃないから、お姉ちゃんにこんな風に揺さぶられるとどうする事もできなくって、頭をぐるんぐるんさせながら成すがままになったんだ。

 そしてそうなると当然目が回っちゃうわけで。

 こてん。

 その場でへたり込んじゃったんだ。

「わっ、ルディーン! お母さん、ルディーンが」

「あらあら、大変。キャリーナ。ルディーンはまだ小さいんだから、そんな風に揺さぶったら目を回してしまうのは当たり前でしょ」 

 目の前が、ぐるぐるだぁ。

 遠くでお姉ちゃんとお母さんが話してる声が聞いている気がするけど、僕はその場で目を回しちゃってるから倒れたまま動けない。

 と言う訳でお母さんは僕を抱えると、そのままお家の中へ。僕をベッドに寝かせて、

「ルディーン。お片付けはまた後でね。目を回してすぐに動くと気分が悪くなるかもしれないから、今は寝てなさい」

 そのまま寝るようにって言ったんだ。

 そしてその横にいるキャリーナ姉ちゃんはと言うと、物凄く落ち込んでた。

「ごめんね、ルディーン」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと目が回っただけだもん。本当はすぐに起きても……」

「ルディーン」

 そんなお姉ちゃんが謝ってきたもんだから、僕は大丈夫な所を見せようと思って体を起そうとしたんだよね。

 ところが、お母さんに肩を押さえられて、そのまま寝かされちゃった。

「寝てなさいと言ったでしょ? 魔法が使えたり、色んな物が作れるようになったって言ってもルディーンの体はまだ小さいんだから、無理をしてお熱を出したらどうするの?」

「は〜い」

 僕は大丈夫だって思うんだけど、お母さんがそう言うんだから起きる訳には行かないよね。

 だから僕はおとなしく、午前中はベッドの上でごろごろしている事にしたんだ。


「ねぇ、ルディーン。私にはなんで”じゃんぷ”って魔法が使えないの?」

 お昼の時間になって、やっとお母さんから起きる許可がもらえた僕は、ご飯を食べている最中にキャリーナ姉ちゃんからこう聞かれたんだ。

「あのねぇ。ジャンプは魔法使いが使う魔法だからだよ。お姉ちゃん、つまんないからってライトの魔法の練習、やめちゃったでしょ。だから神官の魔法は使えるけど、魔法使いの魔法は使えないんだ。だからジャンプは使えないんだよ」

「えぇ〜、そんなのルディーン、教えてくれなかったじゃない! 知ってたらライトの練習もやったのにぃ」

 だからその理由を教えてあげたんだけど、そしたらキャリーナ姉ちゃんが怒り出しちゃったんだ。

 でもさぁ、

「ジャンプってお家とあと2箇所に行くのが便利になるだけの魔法だよ? お姉ちゃん、それを覚えられるて教えたらずっとライトの魔法の練習、やった?」

「それだけしか行けないの?」

「もっと大きくなって魔法がうまくなったら5つの場所まで選べるようになるけど、それはきっと僕やお姉ちゃんがお爺さんやお婆さんになる頃だよ」

「そうなのかぁ」

 お姉ちゃんは、そんだけしか飛べる場所が選べないって聞いて、ならいいかって思ったみたい。

「それしかできないなら、おけがを治せるキュアが使えるほうがいいから、今のままでいいや」

「うん。お姉ちゃんならすぐに毒を治す事ができる魔法を使えるようになるし、大きくなったら病気とかもきっと治せるようになるよ」

 そして将来はいろんな治癒魔法を覚える事ができるようになるって聞いて、キャリーナ姉ちゃんの機嫌は一気に良くなったんだ。

「ホント? ならさ、そんな魔法が使えるくらいになったらルディーンがまた、魔法の呪文を教えてくれる?」

「いいよ。お姉ちゃんが使えるくらい魔法がうまくなったら、また新しい呪文を教えてあげるね」

「うん! 約束よ、ルディーン」

 こうして僕はキャリーナ姉ちゃんに、これからもずっと魔法を教えてあげるって約束したんだ。


 お昼ごはんの後、僕とお姉ちゃんは少しの間お昼寝。

 僕はもう元気になったよってお母さんには言ったんだけど、ダメって言われてベッドに押し込まれてしまった。

 大丈夫なのになぁ。

 そう思いながらも僕とお姉ちゃんは1時間ほどお昼寝をして、今度こそ元気いっぱい。

「それじゃあ、お片付けをしましょうね」

「「は〜い」」

 お母さんの号令の下、物置のお片付けを開始。

 途中、中に転がっていたちょっと大き目の魔石を発見したり、

「あら懐かしい。これ、ヒルダが初めて倒した一角ウサギの毛皮よ」

 と言いながらお母さんが傷だらけの毛皮を見つけたりして、その度にお片付けは中断。結果、ジャンプの魔法陣を設置するだけの場所を作るのに、夕方までかかっちゃったんだ。

「ルディーン。少し時間はかかってしまったけど、これでいいのよね?」

「うん。これくらいの広さがあれば大丈夫だよ」

 それでも、なんとか準備ができて一安心。

「じゃあルディーン。早速”じゃんぷ”って言う魔法、見せて」

「ダメだよ。だって僕、まだ魔石もらってないもん」

 と言う訳でキャリーナ姉ちゃんがジャンプの魔法をせがんだんだけど、使って見せようにもお父さんから設置するのに必要な魔石をもらってないから、まだ使えないんだよね。

「あら、魔石が必要なの? どれくらいの大きさが必要なのかしら?」

「えっとねぇ、ブラックボアから取れるくらいの魔石があればいいんだよ。お父さん、お家に帰ればあるって言ってたけど、今日はご用事があるからって朝早く出かけちゃったでしょ? だからまだもらってないんだ」

「ああ、それなら」

 僕からその話を聞くと、お母さんはエプロンのポケットからビー玉よりちょっと大き目のちょっと埃を被った魔石を取り出したんだ。

「これなら使えるんじゃないかしら? さっき物置を片付けている時に見つけたんだけど」

 そう言って手渡された魔石を鑑定解析で調べてみると、ブラックボアが持っている物よりちょっとだけ強い魔力が込められていた。

 と言う事はこの魔石を使えば問題なくジャンプの魔法陣は設置できると言う事なんだけど……これって使っちゃってもいいのかなぁ?

「お母さん、物置の中にしまってあったって事は、これって大事なもんじゃないの?」

「ん? ああ、いいのよ。確かに記念の品といえば記念の品だけど、それ程大事な物でも無いし」

 お母さんが言うには、お父さんと二人で初めて帝都の方に行った時、向こうで倒した魔物から取れた魔石の中で一番大きな物だったからって売らずに持ち帰ったものなんだって。

「もう存在さえすっかり忘れていたんだし、埃を被ったまま眠らせておくよりはルディーンに使ってもらったほうがいいと思うわよ」

「うん、解った! じゃあ使うね」

 そういう事なら使っちゃってもいいよね。

 と言う訳でステータス画面を開いて、魔法陣を見ながら魔石に魔力を流す。そして出来上がった印を付ける魔石を僕がポイっと物置小屋の床に放り投げると、そこから赤く光る魔法陣が広がって行ったんだ。

「わぁ、きれぇ〜」

「本当に綺麗ねぇ」

 お外や光が十分に入ってきていたロルフさんのお家の部屋と違って、ちょっと薄暗い物置小屋の中で見る赤く光るジャンプの魔法陣は、僕の目から見てもほんとに綺麗だった。

「これでもう何時でもジャンプの魔法が使えるようになったよ」

「ホント? 見せて見せて!」

「うん! でも、危ないから今の場所から動かないでね」

 急かすキャリーナ姉ちゃんにそう言うと、僕は一度物置小屋を出てお家の中に入る。お外で魔法を使うと、誰かに見られちゃうかもしれないからね。

 そして僕はお家の中でジャンプの魔法を唱えると、いつものように選択肢の画面が目の前に浮かんだ。

 これで3箇所全部埋まっちゃったなぁ。

 でも、次にどこかに設置する時はこのどれかを消さなきゃいけないんだけど、どうやればいいんだろう? 選択肢とか、出るのかなぁ?

 そんな事を考えながら、僕は一番下にある物置小屋を選択。するとすぐに目の前の光景が切り替わったんだ。

「わぁ! びっくりした〜。ほんとにルディーンが飛んできた」

「ホント、不思議ねぇ」

 そしてそんな僕を見て、お母さんとキャリーナ姉ちゃんはびっくりしながらも、楽しそうに笑ってたんだ。


 その夜。

「あの魔石、使っちゃったのか……。しまった、出かける前にブラックボアの魔石をルディーンに渡しておくべきだった」

 晩御飯の時にお母さんが物置小屋にあった魔石を僕にくれたって話したら、お父さんががっかりしちゃったんだ。

 どうやらあの魔石、お父さんとお母さんが結婚する前に帝都に行って取ってきたものだったんだって。

 お母さん。やっぱりあれ、大事な物だったんじゃないか……。 


リンク貼るの忘れてた……。

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